忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
第5章 駆け引き
考えてみれば想い人と旅をするという同じ境遇、先に思いを遂げたのは真葛の方であったか。部屋の中で自分で持ってきた茶を啜る藤吉ははぁと声を上げる。
「ま、一先ずめでてえって事で」
「めでたいものですか、体は繋がっても心は相変わらずの冷え加減。
でもそうですね、嬉しかった……ですよ。」
「あーあぁ、やってらんねえな、アンタのその顔が一番まずい、
甘ったるくて腹にこたえるってもんだ。」
藤吉はがぱっと茶を呷る。真葛は照れたように顔をくしゃりとしながらおにぎりをついばんだ。
「で、どうだい 今度 お新さんも旦那も留守の時に、また」
「藤吉さま」
肩を寄せてにやりと笑い、悪戯に真葛の肩を組むと真葛はその手をぺんと軽く叩く。
「いや忘れられる訳がねえ、アンタのあの具合」
「あら、忘れてしまったのでは?
だって旦那さん果てる前に逃げられてしまったではないですか」
「く、」
くすくすくすと笑っていた真葛だが、はと顔を上げる。
そうすると彼女はす、っと愛し気に目を細めた。
「ね、九郎太さま」
藤吉はその言葉に座ったまま三寸ほど跳んだように思えた、ぎくしゃくと振り返れば柱を背に寄り掛かり腕を組んで此方を見ている。
「ふん、藤吉何を遊んでいる。早く来い。
真葛、お前は早く湯浴みでもしてこい。」
「はい、では、九郎太さま、藤吉さまも、後程。」
「おう」「ああ」
藤吉は頭を下げながら九郎太の後を追う。しかし妙な感覚だ。
本当に好いてないんですか?夫婦のようじゃあないですか、なんて、声をかければ藪蛇か。とりあえずは目の前の仕事である。今さらあの時の恨みと言って斬りかかられてはたまらないのだから。