忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
第1章 出会い
黄門様御一行の命を狙う柘植九郎太らは、最初の一手として選んだ石切り場での暗殺を失敗。
次に一行が訪れるであろう土地に先回りし次なる暗殺の計画を企てんとしていた。
ふと、九郎太は人々の賑わいで岡場所がある事に気付く。
九郎太は女遊びに興じるような種類の男ではなかった、しかしどうも偉い人間というのはそういった事が好きなようで、此方も女を宛がえば喜ぶと思っている者も多い。
その為彼にとっては付き合いで巻き込まれる面倒な場所、という印象がぬぐえなかった。
特に興味もない事だ。足早にその前を通り過ぎようとすると、不意に妙な気配を感じて昼見世中である格子窓の向こう、
呼び込みをするために並んだ女の容姿は取り立てて言う事もないだろう、その中に、異様なほど目を引く者が居た。
一般に、昼見世にはその遊郭(岡場所)の中でも格下の遊女達が呼び込みをするという。しかし、その女はどう見ても一線を画す、花魁。時代であれば太夫と呼ばれる存在であることは誰の目にも明らかであった。
格子窓を、金もないのに関わらず冷やかしで覗いていた町人はその姿を珍しいものを見た、なんてついている、と口々に噂し、彼女の姿が見えた事によって格子窓の前の人だかりは増えてゆく。
格上であろう遊女は、じ、っと九郎太を、また彼女も異様な者を見つけたような瞳で見つめていた。
時間にしてたった数秒の事、彼女は視線を外すと奥に引っ込んでしまう。
九郎太は気付けば駆けるように岡場所の入り口を潜っていた。