忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
第1章 出会い
生まれは伊賀の忍び、柘植の里。
領主の命に従い暗躍していたのも今は昔、天下泰平の世にあってその存在意義は次第に薄れていた。
それでありながらも彼らは忍者に生まれた誇りを持って、主の役に立てるよう日夜厳しい訓練でもって技を磨く。
だがその力、振るう場所もなく
能力があれども誰も評価をしない。
貧乏な里で細々とした生活……。
野心の強い、下忍であった九郎太はそのような生き方、満足できるはずもなかった。
抜け忍は何人たりとも許さぬというその里の掟を破り、男は逃げおおせる。
一方、その女は実によくある貧困の家の子供。
女衒にお墨付きをもらって良き値段で売られていった。
琴や囲碁、文字の読み書きを教えれば乾いた土に水が染み込むかのように吸収し、見目の麗しさも含めて押しも押される1番人気の花魁となったのは言うまでもない。
他の女郎による嫉妬こそあれど、誰もが彼女を憎みはしなかった。
なんせ、こんな地方の岡場所である。彼女の稼ぎがここを支えているといってもおかしくはなかったのだ。
お互い、生まれが恵まれぬ者、
この時代にあっては当たり前かもしれないが、それでも、忍びと花魁など、真っ当な愛だ恋だの囁けるはずもなかった、いや必要もない事。
忍びは女に固執すればおわりと嗤う男と、
男は金で体を買う存在としか知らぬ女の、お噺。