忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
第1章 出会い
江戸の初期、徳川家康の孫として徳川光圀公は天下の副将軍として人々に深く尊敬されていた。
しかし、将軍家の実権を握るため、後継者をめぐり暗躍する男が譜代大名たる柳沢吉保【やなぎさわ よしやす】その人である。
この物語はその柳沢による悪だくみから始まる。
柳沢は光圀公を失脚させるため、「光圀公が薩摩藩を潰そうとしている」という根も葉もないうわさを作り上げ、薩摩からの刺客に光圀公を暗殺させるよう仕向けた。
そうして事実薩摩藩を滅ぼし自らが陰で操りやすい次期将軍候補に差し出そうというのである。
元々薩摩は他国の者を寄せ付けない謎の国という様子、そんな薩摩の胸を開き交流をもつことによって真の日本の平和につながるであろうと考えた光圀公―…「水戸の黄門様」は、その根も葉もない噂を解消するためにも、その足で薩摩へと向かう。
―――その、柳沢に取り入ろうとする男が現れた。男は柳沢を「天下の極悪人」と呼びつけ、なお「そんな貴方に天下を取らせたくなった」と宣った。
そうして男は柳沢吉保の命により
黄門様を亡き者にするために、薩摩を柳沢に差し出すために、その後を追う。
その男の名前を、柘植の九郎太【つげのくろうた】と云った。