忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
第4章 旅立ち
「お前は聡明な女だと思っていたが物忘れが激しいようだな」
「え、…どういう、意味でしょう」
「共に旅をするつもりがあるのなら数日まて、とそう告げた筈だが?」
「まっ」
真葛は口元を抑える。そんな発言、誰が信じるというのか。
「なぜ私を、共に?」
「藤吉の話は聞いたか」
「い、いえ、好いている女性がいらっしゃるのは聞きましたが」
「そいつもおれの仲間、いや手駒だが、
二人ともどうも浅慮でな、もう一人頭の切れる、そして信頼のおける配下が欲しいと思っていた。
どうだ、お前のいうこの地獄から救い出せば、お前はおれに忠誠の一つでも誓うであろうが」
心を閉ざし、地獄で過ごすと、目の前に垂らされた蜘蛛の糸が理解などできないものだ。
真葛は頭を鎚で殴られたように混乱し、目を瞬くしかない。
「わたしは、遊女でございます、そんな、お役になど」
「碁の勝負でおれにわざとまけたお前がか」
「ち、ちがいます!あれは先に九郎太様が私を計られたので私は確かに最初は接待を考えましたが、そんなことせずとも九郎太様は私より一枚も二枚も上手で…」
碁、とは二度目の逢引の時、九郎太が彼女を使い物になるかどうか図ろうとまた会話をして碁でもって勝負をしたりした事であった。
「っふっふふ、それが十分、共をするのに十分なキレ者だというのだ。真葛、おれの右腕となって働くがいい」
「――ですが!」