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忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで

第3章 恋煩い



遊郭において花魁は客より偉い立場になる。
とはいえ根本は客商売、つれなくするのも手管のうち―…、それでいて、この目の前の色男の経緯を聴けば相手もしやすい。

杯に酒を注ぎながら身の上話を語るその男、
先に仕事で来ている男と此処で合流する予定で宿をとるも、一緒に旅をしている好いた女にうっかり口を滑らせ不興を買ってひっぱたかれてけんもほろろ、宿から追い出されてこの有様。

藤吉と名乗る男は足を崩して真葛の膝に頭を乗せる。
杯を持たぬ手が太ももを探りに来たため、そのお痛をする手をぴしゃりと叩く。

「藤吉さま、私はそんな安い女じゃありませんよ?
 ちゃんと相手してほしかったらもう少しちゃんと通って頂かないと」
「つれないねえ」
「遊女と遊びたければ下に一杯いたでしょうに」

ふふと気高く振る舞うと男は嬉しそうにへらへらと笑う。
そんな女を一晩確保できただけで自尊心が満たされるのだ。
尚もおイタをしたがる手を探って繋いで拘束すれば、その手に覚えがあってふと止まる。

「あん?どうした?」
「いえ……」

働き者の手をしている。この男、こんな様子でありながらどこかのお偉いさんの道楽息子かと思えばそうでもないらしい。真葛は静かにほほ笑んだ。
手を揉むように撫でつけて、膝から藤吉に降りるように言うと立ち上がり琴を出す。

「あんた、惚れてる男でもいるのかい」
「あら、どうして?」
「いや?そんな顔をしている、と思っただけだ。
 ちいともおれの事なんか見ちゃいねえ。
 おればっかり袖にされてる話をするのも癪だ、話してみろよ」

真葛は自分の仕事が無意識に適当になっていた事を反省するも、少し考えて、

「私は今は、貴方に……なんて、今ばかりはやめましょうか」

今相手をする客に、ほかの男を好いているなんて話は赤子でも御法度であることはわかる。しかし今この場この相手ではこの手の会話は可となる気がした。

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