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忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで

第3章 恋煩い



しのぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで

隠している筈の私の恋は、人に「恋をしているのか」と尋ねられてしまうほど、表に出てしまっているようです。という意味。



「そう、ですねえ、ええ、つい先日の事です、私、初めて恋を覚えました」
「ほう、あんたみたいな別嬪さんの心を射止めるとは、よっぽどのいい男か」

小首を傾けて、下唇をんと突き出す。
「そうですねえ、見目でいえば、藤吉さまには及ばないかと思いますよ」
「ほう」
「背が6尺ほどあって……、」真葛は眉の両端を持って吊り上げて眉間にしわをくっと寄せる「こーんな怖い顔で」

藤吉はうん?と頭に嫌な予感が過る。
つい先日に出会った長身の怖い顔の男、というのがまあ思い当たるところがあるというか、自分の上司にあたる男というか。いやまさか人違いだと思いたい、柘植の旦那に女遊びの趣味があるとは一緒に旅をしてみたことがない。

「それで、とても…働き者の手をしていて。侍様の身なりをしているのにご武家様とは思えない…」

確定じゃないだろうか。だから藤吉の手に同じものを感じてわずかに行動を止めたのではないだろうか。言うまでもない。それは忍びの訓練を積んだ者の手だからである。

「へえ、そんな男に惚れちまったってのか」
「変ですよね。その方、よく、鼻で笑うんですけれど」

絶対に柘植の旦那だ。藤吉は彼女から出てくる単語一つ一つに頭を殴られた気持ちになる。

「ひどく、莫迦にしたように笑うくせに、その時だけとても目元がやさしくて…憐れまれてるだけかもしれませんけどね。でもやっぱり、手ですね。働く者の手が好き。」
「まったく、気楽に訪ねてみりゃ胸焼けがするぐらいの惚気ときたもんだ」
「ごめんなさい!ふふ、でもね藤吉さま、その方は旅をされているのですって。それは――」

共に来ないかと、数日まてと言われていても
絵空事なことは解っていた。

「もう、会えないという事でしょう?」

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