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忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで

第2章 仕事をする者



それからの九郎太の仕事は早いものであった。
翌日、水戸のご老公がこの町に入ると知るや否や例のガマガエル代官の手の者を使って光圀公暗殺の計を案じる。
それが失敗に終わると二の矢三の矢を計画しながらも、仕掛けた者がガマガエル代官の者であるという確固たる証拠をその場に残した。

勿論それに気付かぬ黄門様御一行ではない。この町に蔓延る腐敗を見抜き、解決へと動き出すだろう。
となれば困ったのはガマガエル代官である。光圀公には目を付けられ、周囲では悪事の尻尾を掴もうと警戒され、その裏では尻尾を掴まれ脅してくる柳沢の遣いの者という男がいる。

こうなってしまえば大好きな岡場所で遊女を侍らせ遊ぶことも出来やしない。
九郎太が老人一人も殺せない配下を持っていると嫌味に脅しと屋敷に出向いてやれば、その姿見えなくなると同時にガマガエル代官は癇癪を起し、「この騒動が収まった暁にはわしは真葛を身請けするぞ!」という叫び声が聞こえてきた。

ふん、と九郎太は鼻で嗤う。叶わぬことだ。
お前ではおれどころか、光圀も出し抜けまいよ、と。



ガマガエル不在の岡場所で、普段であれば暇などしているはずもない花魁が、ひょいと一見さんに捕まってしまった。

その座敷に入ってきた男を見て、真葛はきょとんとして、「貴方のようなならず者でも懐が温かいほど、今は景気が良いのかしらね」、と皮肉を言う。

「おいおい、そう言うなよ、ちゃぁんと銭は払ってきてんだ。
 相手してくれるんだろ真葛さんよ。」

男はへらへらと笑って腰を下ろす、その瞳は悪でありながら純真、小悪党なんてのが似合いそうな色をしていて、九郎太より一層乱雑に扱っている髪に身ぎれいにするだけはしている着物。とてもじゃないが品はなく、金を持っているようにはみえない。
しかし目を見張るのは誰からみても色男と言えるだろう整った顔立ち……に、大きな紅葉の跡がついている事だろうか。

「女性に叩かれたそのままの顔で岡場所の一等高い遊女の元にやってくるなんて、よっぽどですよ、旦那さん」
「心の底から惚れ込んでんだけどねえ、全然わかっちゃあくれねえ。
 おれぁ藤吉ってんだ、ちと慰めてくれよ。」

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