第3章 兄について思う2,3の事
sideミルキ
「ハル兄」
「なぁに?」
呼び掛けたら当たり前みたいに柔らかな声が降ってくる。
「それ、いやじゃねーの?」
きょとんとしてからハル兄はその場でクルリと回って見せる。
動きに合わせふんだんに使われたフリルが膨らむ。
ちらりと見えた膝丈の純白のドレスとニーハイの間の絶対領域が眩しい。
普段はセットなどしていない白銀の髪を結い上げるのは細身の青いリボン。
それがゆらゆらと動くのを何となく目で追った。
「似合うだろぉ?」
女装した兄が美しく笑うのにたじろいだ。
よく見るとうっすらと化粧もしているようで、赤く淡く色づいた唇がより女性的に見える。
「いや、まあそうなんだけど」
それでも何だか違う人みたいで嫌だった。
だってハル兄はそんな笑い方しない。
そういう不満が見てとれたのか、いつものにへっと気の抜ける笑みに変わった。
「違和感なく着れるのなんてどうせ今だけなんだから親孝行だよぉ」
「ええー…」
ハル兄は変わり者だというのが家族の共通認識だ。
暗殺者とは思えない振る舞いをごく自然にする。
甘ったるい砂糖菓子みたいな思考回路と、機械のような暗殺技術が共存している。
奇跡のような馬鹿だとイル兄は言った。
念の覚えも早くて出来は良いとママは喜んだ。
仕事が出来れば文句は言われない。
「ミルキ」
俺はその優しい声で呼ばれるのが好きだ。