第3章 兄について思う2,3の事
そして仕事の帰り、ほんの少しだけ目を離したその隙に。
路地裏で歳上であろう男から声をかけられ困った顔をした兄がいて、頭を抱えそうになった。
「あ、えっと、」
オドオドと謎に人見知りを発揮しているらしい兄は、どうやら男の目に宿る欲には気付いていないらしい。
柔らかく断りの言葉を口にするが、押し切ろうとする男には効果がないようだ。
敵だと、嫌なものだと認識したら、あの温厚の皮は剥がれ落ちるのだと知っていた。
だからこそイライラするのだ。
双子で身長も同じなのにどうも体格に差があるようで、兄は大分細身だ。
頼りないとか弱そうとか優しそうとか、そういう印象がああいう男に付け入れられるのだといつ理解するのか。
「ハル」
「あ、イルミ」
ホッとした顔をするのにまた少しイラッとした。
「いくよ」
「え、あ待って」
「おい!何無視しようとしてるの」
ハルイの腕を大きな手が掴む。
カチンと固まって強張った顔を目にすると、同時に頭の片隅でまずいなと思った。
でも、止められない。
「あ」
ぐちゃぐちゃになった人だったものと、その血を浴びてしまったハルイを見て、自分でやったことながら溜め息を吐きたくなった。
ハルイといると溜め息ばかり吐いてしまう。
「うぅ、気持ち悪いよぉイルミ」
「ごめんごめん、ウザくてつい
でもハルも悪いんだよ」
「…………?ごめん」
ハルイはどうやら自分の服を犠牲にお菓子を守り抜いたらしい。
綺麗な紙袋を抱えて血塗れのまま部屋へ戻っていったのを見送って、今度こそ今日何回目かの溜め息を吐いた。
あの世話の焼ける男がどうも放っておけないのは、兄弟だからなんだろうか。