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水際のテラル

第3章 兄について思う2,3の事



カチリ、と空気が切り替わるのが分かる。

仕事の時だけはいつもの子供っぽさがなりを潜める。
冷徹で、慎重で、無慈悲に命を奪う暗殺者。
まだ未熟なオレ達は二人で仕事を行う事も多い。
ハルイはオレのサポートに回る事が多いけど、仕事を遂行するスピードはハルイの方が早い。
ターゲットの命を取るまでの最適な道筋が見えているかのような無駄のなさは、天武の才と言えるだろう。

そんな姿を見て、そういえばハルイは己の兄なのだと思い出す。まあ、兄弟とはいえ双子だけどね。

「行こう」

トン、と爪先で一つ床を小突くのはハルイが円を展開する時の癖だ。
流石に音は出さないけど、無駄な動作だと思う。

「ハルイは才能はあるが気持ちのむらが多い。スイッチさえ入れば問題ないのだが、不意に切れたときが心配だ。
上手くコントロール出来るようになるまではお前がサポートしてやれ」

父にそんな事を言われたのはいつの事だったろうか。
自分が「了解」と返したのだけは覚えている。


ハルイが水を苦手としているのは知っていた。
だからこそ殊更力を入れて訓練を行っていたのも。

護衛を殺されたターゲットが道連れにしてやると叫んで、部屋に水を流れ込ませるとは思わなかった。
油断、といえばそうだろう。気は緩んでいなかったけど、生き汚いところがあるターゲットに、こういうことが出来るとは思っていなかった。
近くにいたハルイが水中でターゲットを屠るのと、完全に部屋が水に沈むのは同時だった。
動かずに漂っているハルイの身体に手を伸ばし、何とか服の端を掴んだ。
強ばった身体を抱き込む。
意識は失っていないようで何度か瞬きするのが見えた。
しっかりしろという気持ちを込めて頭を叩く。

パチリとどこかを漂っていた大きな目のピントが合った。
色の無い唇が動く。
声の代わりに気泡がこぽりと溢れるのが、いやにゆっくりと見えた。

「マ イ ア ク ア リ ウ ム」

水流とは異なる念の奔流が身を浚う。
部屋の窓を粉々に砕いて、水と一緒に最上階から空に放り出される。
水とガラスとハルイの髪がキラキラと舞って、どこか幻想的ではあった。
やがて念の水の層に沈むことで怪我もなく地上に降り立った。

「ちょっと、大丈夫?」

「だいじょぉぶ……ぉえっ」

「水飲んだなら吐いときな」

「う゛ん」

安心感と苛立ちとが溜め息になって零れた。
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