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水際のテラル

第4章 無知という死病



まだ納得していない様子のイルミは後回しにして、大きな扉の前に立つ。

まずはお父さんに許可を貰えないと何にもならない。
というかお母さんに話がいって却下される前に、ちゃんと許可をもぎ取っておかないとめんどくさいからね。

もう僕が部屋の前に居ることは気づいてるだろうけど、形式上コンコンとノックをして入室する。

「あのねぇ、話があるんだけどぉ」

「ハルイか、どうした」

正直お父さんは威圧感に似たオーラがあって、ちょっと怖い。
ちゃんと話せるように何度か深く呼吸をして心を静める。

「ちょっと旅がしたい」

声は震えてないだろうか。
みっともない話し方になってないだろうか。
自分じゃ分からないから、目だけは逸らさないようにする。

「仕事とか関係なく、一人で僕の目でちゃんと世界を見て来たい」

駄目かもしれない。
許されても、もしかしたら帰ってくるなと言われるかもしれない。
でも必要だと思ったから。
ここから離れて、この世界で生きるということをちゃんと知らなくては、僕はきっと駄目になる。

「ハルイがそんな事を言い出すとは思っていなかったから正直驚いた。
ずっと家から出たくないと言っていただろ」

「出たくないよ。
ずっと引きこもっていたい」

それには即答を返す。
ずっと変わらない要望だから。

「そのために今、一生分の景色を見てくるの。
世間知らずにはなりたくないから」

「……お前は、変わっているな」

お父さんから渋面に近い苦笑が零れた。


「許されるなら、ちゃんと戻ってくるつもり」

だけど……と尻すぼみになったのに力強い手が伸びてきて頭を撫でられた。

「戻ってこい、ここはお前の家だ」

「…………ありがとう、お父さん」

目を伏せて強ばる口を動かし何とか笑みを作る。
歪だろうそれに、またお父さんが苦笑したのが分かった。

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