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【弱ペダ/荒北靖友】フライデー・ナイト・マックイーン

第1章 第1話


「逆に言えばさ、セックスのない結婚って、アリ? ナシ?」
 何が逆に言えばなのかは忘れたが、言い出したのは例の法学部だ。多分、彼は明確に「ナシ」の立場からそんなことを言ったのだろうけれど。この問いに対して、まだ若く少しは向学心のあった私が返した答えがこうだ。
「私は、アリだと思う。むしろそういうのっていいなとすら思うよ。ほら、『きらきらひかる』とかさ、江國香織の。憧れるじゃん」
「偽装結婚ってこと?」
「それとはまた違って……『きらきらひかる』のゲイの旦那とアル中の奥さんは確かに偽装結婚だったよね。でも、それ以外の要素もあれにはあるでしょ? その部分を抽出するっていうか、そう、普通に男女出会いしあって結婚するとしても、性的欲求とか、そういうのなしで、一緒にいるってさ。良くない?」
 今思えば、とんだグータンヌーボ気取りの恥ずかしい発言だったと思う。私のこの発言はどうやらそれまでの意見に一石を投じるものだったようで、「ウッソ」とか「マジで!?」とか、暫しテーブルはざわついた。そこから除々に、経済学部女子の「ていうか、男女の友情って成立すると思う?」というこれもまたグータンな問いに話題はシフトしていったのだけれど。
 そんなとき、それまで可もなく不可もないような相槌を打っていた向かいの席の荒北くんが、ぼそりと言ったのだ。俺も、アリ派だわ、と。
 結局その授業の発表は予定調和的なグータンヌーボ的発表でお茶は濁され、私たちは揃って9の評価を受け、そして、荒北くんと私は、時々学食で昼食をとったり授業の合間にお茶をする仲になったのだった。
 もっとも、将来的に彼と籍を入れることになるなどと予想していたわけでは一切ない。そもそも、そのとき私には別に付き合っている人もいた(半年後に別れたが)。私たちが大学四年間の間に恋仲になることはなかったし、今なお、厳密に言えば荒北くんと私が恋仲になったことはない。それに、大学卒業後はそもそもほとんど会うこともなかった。
 けれど私たちは今、あの居酒屋でほんの少しだけ交わした「セックスのない結婚」を実現させている。同じ意見を持つ者同士で。
 卒業後、いったいどんな経緯でこんな奇妙な関係を彼と築くことになったのか、そう大層なものでもない紆余曲折が若干はあるのだけれど、それはまた別の機会に説明することとして。
 つまるところ、私たちはそんな夫婦だ。
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