【弱ペダ/荒北靖友】フライデー・ナイト・マックイーン
第1章 第1話
査定での答弁を部署の全員が終え、揃って職場を出たのは午後七時五十分であった。当然ながらあたりは暗く、夜の冷気がコートの隙間から容赦なく入ってくる。駐車場まで小走りで向かい、車に乗り込んだはいいが、しかし車内も相当寒い。まともに暖房がきくまでは時間がかかりそうだ。覚悟を決め、エンジンを掛けて走り出した。BGMは、勝手に荒北くんのラックから拝借したエンヤを選択。
職場からの帰り道にあるちょっとした輸入食材なども揃えているコジャレたスーパーで約束したとおりの惣菜と牛乳、卵を買うと、そのまま自宅へ。職場からスーパーからまでは約十五分、スーパーから自宅までは五分。余り大した距離ではないけれど、それでも駐車場に入った時刻は八時半を回っていた。
一応、夫婦として添い遂げるつもりはあるので、荒北くんと私は結婚と同時に二人の職場のほぼ中間地点にマンションを購入している。駅からは遠いが、二人とも車中心の生活なのであまり不便はない。今のところはご近所ともうまくやれているし、まあまあ順調な生活だ。
「ただいま。今日はごめんねぇ」
「お帰り。ご飯炊いてあるヨ」
「わーありがとう!」
疲れた、と玄関で伸びをしていると、既に部屋着に着替えた荒北くんが出迎えてくれた。コート掛けてきたげるヨ、と、本当に我が夫ながらできた男だ。ありがと、と微笑み、通勤用バッグは玄関脇のクローゼットへ放り込む。スーパーのビニール袋は、そのまま食卓へ。キッチンで手を洗えばそのまま夕食だ。
食器棚から茶碗と皿を出していると、私の寝室にコートを掛けてきてくれた荒北くんが戻ってくる。ご飯よそうね、と声をかければ、「じゃ、おかず盛っとくワ」とのことだったので、ありがたくお言葉に甘えて皿と菜箸を差し出した。
「あ、チキン南蛮温める?」
「そだネ。レンチンでいーヨ」
「じゃ、南蛮さんだけ貸して」
「ハイ南蛮さん一丁」
「なにそれ」
「居酒屋ごっこ?」
ネタが微妙だよ、と笑いながら。
チキン南蛮の温めには三分もかからない。その間にご飯をよそってサラダをボウルに盛り、きんぴらは小鉢へ、そして牛乳と卵は冷蔵庫へ。温まったチキン南蛮はヤマザキの白いお皿に盛り、取り皿と箸をそれぞれの席に設置すれば夕飯の準備は完了。お金を出せばこれだけの手間で夕食にありつけるのだから資本主義とは素晴らしいものだ。
