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【弱ペダ/荒北靖友】フライデー・ナイト・マックイーン

第1章 第1話


『もしもし』
「今、大丈夫?」
『大丈夫。何かあった?』
「ごめんなさい、今日、会議の日程が前倒しになっちゃって。七時開始みたいなの。夕食、私が作ると遅くなっちゃう」
『あー……じゃ、俺作ろうか? でも、俺も今日打ち合わせでけっこう遅いんだよネ』
「じゃあ、買って帰ろうか? それか外で食べる?」
『外食は……んー。買い食いにしよっか』
「ん、じゃあ、帰り道にフィールで買ってくね。この前のサラダとチキン南蛮」
『きんぴらも食べたいナァ』
「了解。じゃ、ごめんね」
『いいって。あ、米は炊いとくから。じゃ、仕事頑張って』
「ありがと」
 照明を落とし、ついでに給湯器の電源も切って給湯室を出ると、ちょうど吉田さん、美幸さん、井上くんとすれ違った。
「ちよ子さん、旦那さんにラブコール入れてたみたいですよ」
 井上くんがニヤニヤと笑いながら冗談を言えば、「やだぁ」「妬ける~」などとほか二人も悪乗りする。だからそんなんじゃないですって、と手を振り、どうやら近所のラーメン屋へ向かうらしい三人を見送った。さて、あと約1時間半、ここで待機していなくてはいけない。
 デスクの上の未処理箱にはまだいくつかクリアファイルに小分けされた書類束が入っていたが、どれも急ぎのものではない。金曜の夜、これから憂鬱な予定もあるというのに、更に仕事をするのは気が引けた。それに、終業と同時にフロアの暖房も落とされ、除々に冷えていく室内でパソコンとにらめっこをするのは憂鬱なものだ。
 一応は来週の会議資料を添削する体勢を整えながらも、右手にはiPhoneを握ったままだ。特に意味もなくカレンダーを確認したあとで、Facebookアプリを起動する。最近「お友達」になった鳴子くんは意外とマメで、今日も海外の風景にばっちり自分が写った写真つきでテンションの高い日記が投稿されていた。これを確認すると「あ、今日も一日の仕事が終わった」という感じがする。
 少し考えてから、「今度の大会もがんばってください」という旨の短いコメントを残し、他の新規投稿もざっと追うのに約五分。あまり時間つぶしにはならない。
 面倒くさい、と内心で呟きながら、しぶしぶ蛍光ペンのキャップを取った。金曜の夜に残業などするものではない。
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