第36章 どっちもどっち
「こっ、これはっ…」
「えっと、叶さん…!」
慌てて身を起こす宗次郎に口をぱくぱくとさせる叶。
“まずい、きっと誤解を生む”と察して言葉を紡ごうとする宗次郎よりも幾分早く彼女は声を上げるのだった。
「ちょっとー!?なんじゃこりゃああっ。」
「あ、あの、違うんです叶さん。決してこれは…」
浮気ではないと弁明しようとするものの、喉がつかえたように言葉が出てこない。
「決して叶さんじゃ満たされないとかじゃ…」
「ずるい!!!」
「ずるいとかではなく…え?ずるい?」
叩きつけられた言葉に、それに噛み合う解釈が思い付かず、きょとんとする宗次郎。
「はい??」
「ずるい、ずるい!!私も由美さんに膝枕してほしい!!!」
宗次郎は思わず目を丸くさせた。
「…は?そっちですか?」
「は?そっちって、他に何があるのよ?」
「……」
「じゃあ叶もしてあげるわ。耳かき。」
「わーい!由美さん大好きー!」
(すごく釈然としないんですけど…)
思わずじとりと叶を見つめるも、こちらを眺めて含み笑いをする由美に気付く。
「…なんです?由美さん。」
「いいえ、何も♪」
「絶対楽しんでますよね。」
「坊やは叶で…何だっけ。そうそう、満たされてるのよね?」
「!げほっ、ごほっ!」
「え!宗次郎、なんて言ったの!?」
早々と由美の膝枕を堪能し始めた叶だったが、がばりと起き上がり、返答を待つように宗次郎を見つめる。
「……」
「ねぇねぇ、宗次郎♪」
「ほら坊や、愛しの叶が待ち侘びてるわよ。」
「愛しの、とか一々言わなくても…」
この場にいるのが叶一人なら、適当に軽くどついて誤魔化すところなのだが。
由美がいると調子が整わない上、由美がいることで叶が水を得た魚のように悪ノリしてくるので手に負えない。
「…もう、うるさいなぁ。」
「ありゃりゃ、怒られちゃった~。」
「怒られちゃったわねぇ、叶?」
「……そりゃまあ、満たされてますけど、何か?」
「「!!!」」
「…好きでいますから…っ…」