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彼に食ってかかられる

第35章 きらめき雨もよう


これもまたほぼ同時の事だった。前方へと伸びる小道があるのだけど、脇にある──紫陽花の茂みに埋もれるように棄てられていたそれに気付き、二人揃って声を上げていた。



「傘!やったぁ!って、あ、ああぁぁあ~!?」

「…」



走り出した叶さんはあられもない声を漏らしていた。
──傘を手にした僕は叶さんに笑いかけていた。



「今度は僕の勝ちですね。」

「ずるい。縮地ずるい。」

「勝ちは勝ちです。」

「…」


「これで貸し借りなしにしていいですよ。」

「まあいいもん、そんなに降ってないし、止んだら荷物なだけだし。ざまあ。」

「叶さん、かなり苦しいですよ?」

「やっぱり?」





互いにそんな風に憎まれ口を叩いて、叶さんは「ほら、やっぱり雨上がりそうだよ?」とか「降らないのに必死に傘ぶんどった宗次郎w」とか余裕綽々に更に発言を噛ましていったのだけれど。
まあ実際本当に雨は上がりつつあった故、彼女がそう調子に乗る事情は理解出来たから、何か言ってるなぁと僕は思っていたのだけど。


一瞬、回復へと兆していた空模様は再び雲行きが怪しくなり。まずいかも、と思ったその時には雨脚が強く辺りへと降りしきり出したのだった。




「叶さん。」


途中まで鼻唄まじりにスキップしていた彼女は少し先を進んでいたから、急ぎ足で彼女の元へ駆け寄った。濡れた髪と肩に目が行く。
──もう少し気を付けていればよかったな、と遅い自省をしながら傘を叶さんへと差し掛けた。



「…いいの。」

「は?」


傘を持つ手を押し返す叶さん。その言動の為す意味がわからず、間抜け染みた声を返してしまう。もう一度傘を傾けるも、再び押し戻される。


「いいの!私は濡れたって。」

「は?なんでですか。」

「いや、なんか…」



なんだろう。叶さんの顔を覗き込んでみたけど、ばつの悪そうに瞳を逸らされた。
反射的にその視線の先を追って、叶さんが何を思っているのか見透かそうとするのだけれど、そしたら身体を反転させてしまった。



「…た、大したことじゃないから。」

「…いや、濡れますよ?つまらない反抗してないで入ってくださいよ。」
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