第35章 きらめき雨もよう
いつもの青より少し澱み、心なしか彩りの抜けた空。けれども僕の隣の相方は次から次へと詰まらない話題ばかりをその口から吐き出していて、締まりのない表情を浮かべ歩いていて。まるで自分の辞書には「普遍」と「喧騒」という言語しか存在していないんだと誇っているみたいで
「ちょっと、宗次郎!」
嘆かわしいなぁと、
「宗次郎ってば。」
「なんですか、うるさいなあ。」
「誰が締まりのない表情なの!」
「あれ、人の考えてることわかるようになったんですか。すごいや。」
「すごいや、じゃないよ。」
「そこまで教育できた僕。」
「そっち…?」
叶さんは舌打ちをして、面白くないといった風な顔を暫くしていたけど、やがて目先に広がるあれこれにすぐ気を取られてはあっという間に上機嫌に声を弾ませていく。
「ねぇ、ね!紫陽花咲いてるよ!」
「あ、本当ですね。」
「綺麗だねぇ。」
にこっと嬉しそうな笑顔を浮かべていて。
──志々雄さんのお使いなのだけど、なんだかんだ、今日こうして二人で出掛けることが出来てよかったな、とそんなことを思った。思って彼女に釣られて微笑みかけた矢先。
「…お腹空いたなぁ。」
「…空気読んでくださいよ。」
「無理だよ、私を誰だと思ってるの?叶だよ?」
「ええ、知ってますよ。さっき寄ったお茶屋さんで人の分のお饅頭も沢山平らげた叶さんですよねー。」
「あ…や…そうだっけ…」
「ふふ、まあ叶さんの食欲と意地汚さが僕より強かった。それだけのことですよ。」
「ち、違うもん!つ、ついだってば!」
「寝言は借りを返してから言ってください。」
「えぇぇ…ほんとに…?」
「とりあえず何にしようかなぁ。あ、京都銘菓の…あれ?」
異変に気付き空を見上げると、叶さんもほぼ同じくして上空へと目を向けていた。
「…やば。雨降ってきた…?」
「…小雨かな…あ、いけない。少し降ってきましたね。」
「いやー!やばい、私達傘持って来てないよ!」
「あ。」
「…あ!」