第34章 【バレンタイン話】糖度は控えめ?
由美さんや鎌足さんから貰うだろうし。それに、宗次郎甘いもの好きだから自分で買いそうだし。そんなに、いらないでしょ?
………。
(…本当はあげたいんだけどな。今年はちゃんとした“本命”チョコを…。でも如何せん、同じ轍を踏むに決まってるもん。)
「叶さぁ、素直になりなよ。」
「……」
「そりゃあ去年は散々だったかもしれないけど…今は本命なんでしょ?」
「うーん…」
「私だったら迷わないけどな~。蒼紫様に食べてもらうんだぁ♪」
はたと叶は静止する。目の前の彼女を窺うように視線を向ける。
「……あれ、操ちゃん。操ちゃんの好きな人……蒼紫様っていうの?」
「うん、そーだよ!蒼紫様すごくかっこいいんだよ!!今度叶に会わせてあげるね!」
「あ、あはは…き、機会があればよろしくお願いします…」
* * * * *
「あれ?叶さんいないなぁ…どこほっつき歩いてるんだろう。」
宗次郎は首を傾げたまま廊下を歩く。
──ふと気付く。少し開いている炊事場の扉に。そのまま何気なく覗いた宗次郎は思わず声を上げた。
「…あれ?叶さん。こんなところにいた。」
「!う、わあああー!!」
わたわたと辺りを隠そうとする叶。
「何してるんですか?エプロンなんかして。」
「こ、これはその…」
「?お料理ですか?」
「!」
「?違いました?」
「えっとまあ料理…のつもり!」
「つもりってなんです?おかしな人だなぁ。」
はにかんだような優しい笑顔を向けられて、思わず悶々とした想いが叶の胸を渦巻く。
──チョコレートを、宗次郎に渡したいって思って。
「…あの、実を言うと。」
「はい?」
小首を少し傾ける宗次郎。
その瞳に見つめられると、恥ずかしさで出かかった言葉が燻ってしまう。
「…なんでもない!」
「…そうですか。」
「……」
──だめだめだめ、素直にならなきゃ。
叶は思い直し、思い切って宗次郎に告げた。