第33章 小休止
負担になってなければいいな──
「……いや宗次郎のことだから、聞いたところで馬鹿が馬鹿言ってますよーとか言うんだろ、どーせ。…起きてないこと考えたってね。うん!」
そう言って、もう一度鍛錬場の中を覗く。
「…稽古が終わったら、今日はすごいおもてなししてやろう!えーと、肩とか揉んでやろ!」
えーと肩ってどう揉むのかな、全力で力めばいいのかな、と手をグーパーグーパーさせる叶であった。
* * * * *
「…叶さん?」
鍛錬場を出た宗次郎は思わず、あれ?と声を漏らしながら目を丸くした。
壁に背を預けて俯き、居座っている彼女。名前を呼んだにもかかわらず反応しない。
「おーい?叶さん?」
「宗次郎、もう食べられないよう…」
「は?」
「むにゃむにゃ…かすてらが一匹、かすてらが二匹…」
「どこから突っ込めばいいんですか。」
かくん、と首を傾けてこちらを向いた彼女の顔。言わずもがな、眠りの中に落ちていて。しげしげと興味深げに眺めていた宗次郎だったが、
「…見守ってくれてたのかな。」
微笑みを浮かべた。様子を伺い、優しくそっと頭を撫でてやる。
「……待ちくたびれたのかな。こんなとこで眠ってしまう神経はよくわからないですけど。」
見つめながら、ふと表情が緩んでしまう。
「…馬鹿だけど、かわいいな…」
「うん…」
「…えっ?起きてました?」
漏れる彼女の声に少し慌てるも。
「…う、うーん…」
「違う…?うなされてるのかな…?」
「志々雄さんが一匹、志々雄さんが二匹…!」
「………」
(数え方が間違ってるし、そもそもどうしてそういう夢をみるのかなとも思うんだけど。えーと、それ以前に…)
間もなくして宗次郎は黒い笑みを浮かべた。
「えい。」
「っっ!!?」
びくっ、と身体を揺らして目をぱちぱちと激しく瞬かせた叶。
──眼前の彼に驚き、またこの状況に驚き声を上げる。
両手首を掴まれ、それぞれ頭の横に。宗次郎の手によって壁に縫い付けられていた。