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彼に食ってかかられる

第33章 小休止


「…はあ。少しだけ休憩しようかな。」



──久々に腕が重い。

鍛錬場で稽古をしていた宗次郎はようやく腰を掛けた。


「…ここのところ動いてなかったからなぁ。まあ仕方ないか。」


緩みかけていた手甲を整え直しながら、ふと先日のやり取りを思い返していた。





『すみません志々雄さん。入れ替わってる間に任務を滞らせてしまって。』



『まあ良くはないが…おまえもここのところ働き詰めだったからな。一日や二日くらいどうってことねぇよ。』

『すみません。今度いつ入れ替わっても大丈夫なように叶さんを鍛えておきます。縮地が使えるようになるくらいまで。』

『多分それ叶死ぬだろ。入れ替わらないようにしろよ。』

『はい。』





(──とは言ったけど。叶さんには叶さんの役目があるわけだし。

僕はこのまま、ずっと強くあり続けなきゃ。)


そう思い、再び立ち上がったのだが。




『志々雄さんを癒す役くらいこなしてますっ。私を見てると楽しいって言ってくれるもん!』

『知ってます?それ、笑われ者って意味ですよ?』




…以前叶と交わしたやり取りを思い出し、宗次郎は笑みを浮かべた。


「まあ…叶さんといると楽しいですよね、僕だってみんなだって。変なことに巻き込まれることが多い気がするけど。

僕も頑張ろう。」











「宗次郎…ずっと稽古してる。」


そっと鍛錬場の様子を窺ってみた叶だが、いつしか静かに見入っていた。


(あんなに真剣な顔してるの初めて見たかも。…いや、時々はあるか。)


けれど、黙々と素振りをこなしている彼のその珍しい表情に、やはり少しばかりドキドキしてしまうのは否めなかった。


(そうだよね…ずっと笑顔だもんね。私には怖い笑顔とか白けた目とか向けてくるけど。)



まっすぐ目前を見つめる、揺れない眼差し。


“私には、本当の…飾らない素顔を見せて”
──そうは思わない。だって、多分これが宗次郎の自然体だから。入れ替わった時も、私の顔でずっとニコニコしてたし、宗次郎自身も癖でつい…と言ってたし。



(でも…自覚はなくても、どこか意識してたりはするのかな…疲れたりとかはないのかな…)
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