第32章 弱味は蜜の味
「…で?」
「…いえ、それだけですよ?」
じとっとした表情を向ける鎌足に宗次郎は爽やかな笑みを返した。
「嘘おっしゃい!愛しの彼女に抱きつかれて抱き返して押し倒してそれで終わりなわけないでしょうが!」
「いえいえ、本当のことですから。第一、僕も叶さんも疲れていつの間にか寝てしまってましたから。」
「疲れて…?」
「長風呂と風邪でです。」
「え-?本当にぃ?」
「れっきとした長風呂と風邪です。」
宗次郎はにこにこと微笑んだ。
「んもぉ、怪しいわ!まったく!」
「いくら問い詰めたって、これ以上は何も出ませんよ。じゃあ。」
──それからほどなくして。
「あ、ちょっと叶ー。」
「んん?どうかしましたか鎌足さん。」
鎌足は周囲を窺うようにして手招きをする。
「ねえ、ちょっとちょっとちょっと。」
「…?え、ちょっと、どこに連れてくんですか?」
「人に見られるとまずいから……これを見なさい!」
「…なんですかこれ?メープルシロップ?」
「んなわけないでしょ。これはね…自・白・剤♪」
「ほ、ほほーう…?」
「これをね…ちょちょいのちょいと、飲ませてほしいのよ。飲み物とかに混ぜるだけでOKなの。」
「え、誰に?」
「宗ちゃんに!」
「馬鹿じゃないの!?」
「あらぁ?あんた何様のつもり?」
「いったああああ…!ごめんなさぁい…!」
思い切り頰を引っ張られた叶は涙を浮かべた。
「…で?それで宗次郎に何を吐かせたいんですか?」
「………えーと。」
「あー!わかった!私とのことでしょ!?ダメですよぅ!」
「!!違うわよ!」
「いやいやいや!じゃあさっきの間はなんなんですか!」
「えーと。」
「ほらぁ!」
「ち、違うのよ。(何かいい言い訳ないかしら)……あまりにもしょうもないことだから言うのに気恥ずかしかっただけ。」
「…?」
「こほん。私のおやつの団子が誰かに食べられちゃって。その犯人が宗ちゃんじゃないの?というわけ!」
「…ふーん。」
「…もし宗ちゃんが犯人なら、彼の弱味を握れるってわけ。」
「……ふ、ふーん。」