第30章 夢なら醒めないで
「何かすみません…叶さんが風邪気味みたいになっちゃって…」
「ううん…そういえば宗次郎こそ逆上せたのは大丈夫なの…?」
「ちょっとだけ頭がくらくらしますけど……心配ないと思います。」
「そっか…それならよかった。」
にこ、と思わず笑った。
「……あ、えっと。叶さん着替えますよね?」
「え?あ…」
「外に出てますから…」
「……」
「あ…急かさないんでゆっくりしてくださいね。」
「…宗次郎、行かなくていいよ。一緒にいて?」
「……え?」
「寂しいじゃん…すぐにいなくなっちゃうなんて。」
縋るような瞳は酷く扇情的で。思わず言葉を詰まらせる。
「…ちょっとだけ後ろ向いてて?すぐ終わるから…」
「…わかりました。」
「うん…」
「……あ。やっぱり僕、叶さんが着替えてる間に…何か身体を暖める飲み物持ってきますんで。」
立ち上がった彼を見上げると、いつもの笑顔を向けられた。それ以上引き止める術はなかった。
「うん。…ありがとう。」
──心なしか慌ただしく出て行った宗次郎を見て。
なんだか悲しいような、よくわからない気持ちがこみ上げてきた。先ほど繋いでいた手のぬくもりは……あれだけ嬉しくて離すまい、と思っていたのに、ほんの少ししか感じ取れなかった。
「私おかしいのかな……うん、さっき逆上せたし、色々あったから…だよね。」
独り言、世迷い言。そう言い聞かせた。
夢なら醒めないで