第30章 夢なら醒めないで
「四十秒で支度する!待ってな!」
「四十秒は遅くないですか?」
「うるさい。」
まったく、宗次郎も何かと世話が焼けるなぁ。え?私は?……放っといてください。
適当な着物を見繕って抱えて、宗次郎のところへ──そのまま私は足を滑らせた。
「うわっ、とぉ!!?」
「──わあ、さすが僕の運動神経。よく倒れずに持ちこたえましたね。」
「私のことは褒めないの?」
「むしろ逆です。僕の声で変な声出さないでください。」
「はいはい、そうですかー。
……あ、目隠しないや。取ってくるね。」
目隠しの布を取りに箪笥を物色し、手にして再び宗次郎の元へ──そのまま私はまた足を滑らせた。
「きゃあーーっ!!?」
「ああもう、何やってるんですか…」
先ほどと同じく片足を出して踏ん張ろうとしたものの…奇跡はおいそれとは起きないようで。今度はその足もまた、ずるっと滑った…
「「あ。」」
最後に見たのは、こちらに駆け出す私…ううん、宗次郎の姿で。
抱き止められたと思ったところで、強い衝撃が頭に走った──
──叶さん。
(宗次郎…?)
「叶さん。」
「……あ、宗次郎。」
ぼんやりと視界の中心にいたのは、宗次郎だった。ゆっくりと瞳を開いていくと、それははっきりと宗次郎の輪郭を映し出した。
「よかったあ、気付いて。大丈夫ですか?」
「うーん…うわ、たんこぶ出来てる!」
「あー…痛そうですね。僕もこの辺りに…」
「あっ、痛そう…」
互いにおでこを見合わせていて、宗次郎ははっとした表情をした。ほぼ同時に、同じくして私もはっとした。
「…戻ってる…?」
「戻ってますね…?」
揃ってぱちぱちと瞬きを繰り返す二人。
「やった……っ、くしゅん!」
「あ。」
「寒い…あ、そっか、私がびしょびしょなのか。」
忘れてた。