第29章 触れたぬくもり
「…あ、気付いた。叶さん、大丈夫ですか?」
「……?」
目が覚めるとこちらを見下ろす自分の顔があった。
…一瞬、元の宗次郎の顔が見えた気がした。靄が掛かったように思考が今ひとつ働かない。
「う…どうしたの、私?」
「逆上せちゃったみたいですよ。」
「あー…そういえばお風呂に入ってた記憶が。え?私どうやってお風呂出たの?」
「叶さんまったく動けなかったので僕が運びました。」
「いや…そうじゃなく…」
「?」
ってことは、着物…宗次郎が着せてくれたんだね…!うわあ…!
え?これって私、お嫁に行ける?いんや、大丈夫。宗の身体だったから大丈夫……なんか色々ありすぎてまともに思考が働かない。
「あうー…」
「使いものにならない頭回転させて何か出ます?」
「いやもうなんか色々無理。恥ずかしい…」
「ああもう、立ち上がらないでください。」
起き上がろうとした肩を抑えつけられ、再び横たえられたのだけれど。
上体を少し崩し、こちらを見下ろす姿勢の宗次郎。──宗次郎の影が包むようにこちらに覆い被さっていて。そんな今の状況に少し緊張する。
「…宗次郎。」
「…なんですか?」
「…いや、なんでもない。」
…不思議そうに見下ろすのは自分の顔だけど。やっぱり気配は宗次郎そのもの。
もし元の身体だったら、なんだか触れられたくなって…甘えてしまいそうだった。──ふわふわする頭でそんなことを思いながら、押し隠した。
「…ね、宗次郎。手繋いでいい?」
「え?」
「…いい?」
「どうして、また?」
「…繋ぐのに理由がいりますか?」
途端に目を丸くされた。
…こざかしいとか面倒とか言われるのかな。
そう思ったんだけど、宗次郎は微笑んだ。
「そうですね、理由なんていりませんよね。」
優しい眼差し。
…そっと手を握られた。
どうしてだろう。それだけで心まで繋がったかのように、安心して暖かい気持ちになる。
この人といると…
──しばらくそうしていた私だったけど、ふと、私の思考は一気に目眩く回転し出した。
「…宗次郎。今気付いたんだけどさ。」
「はい?」
「めっちゃ濡れてない?…てかずぶ濡れじゃない!?」
「あー…実は。」