第21章 惚れた腫れたなんか
「叶さん、ただいまー。」
「あー、おかえりなさい。宗次郎。」
声が聞こえたので、よいこらしょ、と腰を上げて宗次郎を迎えに行く。
…遠方に出掛けてたはずだけど、全然疲れが見えない。
ニコニコといつもの笑顔を浮かべていて正直拍子抜けした。
「なんだ、全然元気じゃない。遅いから苦戦してるのかな~って思ってた。」
「まさか。あー、お腹すいたなぁ。」
「え?何か作れってフリなの?それは。」
「え?何も用意してないんですか?」
「だって今日帰ってくるとか聞いてないもん。用意できっこないよ。」
「ふーん…」
暫し考え込んでいた宗次郎は、やがて何かに思い当たったかのように、スタスタスタと向かい出すので叶は少し焦る。
「えっ、な…何?」
「いえちょっと思い当たる節が。」
「…!あ、そっちの方危ないよ!こないだ床抜けた」
「嘘ですね。」
スタスタ、と宗次郎は歩みを止めない。叶は更に慌てて宗次郎の着物に縋り付く。
「あー!ちょい待ちちょい待ち!!そっちは水浸しになってて…」
「嘘ですね。」
「あ、ち、違うの!砂糖撒き散らしちゃって、蟻が…!」
「嘘ですね。」
「…!今そこで皆だるまさんが転んだしてて、今動いてるとこ見られたら負けだか」
「嘘ですね。あまりにも嘘がお粗末すぎます。」
とある部屋の前で宗次郎はぴたりと止まった。
「……宗次郎さん宗次郎さん、お腰につけたきび団子…、ってちょっ!あ、ああああー!!!」
ぴしゃあっ、と襖を開けられる。
部屋…もとい叶の部屋。部屋中に沢山の雑誌や漫画やお菓子が散在し、座布団や抱き枕や毛布の形跡がつい先程まで部屋の主がいたことを示している。
今まで悠々自適に過ごして仕事をサボっていたのは一目瞭然だった。
両手で顔を覆う叶に宗次郎はにこやかに微笑みかける。
「…叶さん、叶さん。」
「え~っと、これはね…!?」
「肉団子にしてあげましょうか?」
「ぎゃああああ…!!」