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彼に食ってかかられる

第20章 三度目の正直


「…えーと。」

「え、えっと…!宗次郎、ど、退きますのでっ。」



……なんだか、そそくさとするみたいに。
思わずむっとした。


「邪魔ですか?…そうやって、かわすんですか?」

「え?」

「…それが、本音ですか?」



思うままに、言葉が口をついて出る。



「宗次郎…?」

「…叶さん。」



静かに見つめると、叶さんは身動き一つ取らない。否、取れない。その隙に僕は心の内を彼女に告げる。



「…叶さん。この間から、色々と困ってるとは思うんですけど。」

「!」

「でも、僕は一切、引くつもりありませんから。」



叶さんの丸い瞳に向かって囁いた。



「引かない。叶さんには遠慮しませんから。」

「……」

「だけど、仕事は割り切って、」


「……宗次郎。」



くい、と胸のあたりをすがりつくように引っ張られる。
か細いけど、しっかりと届く声で彼女は呟く。



「…私は割り切れるほど賢くないもん、宗次郎みたいに。」

「…」

「引きずって粗相してばっかだし……やっぱり、私馬鹿だから、何が何だかわからなくて。癪だけど、宗次郎が言った通り…」

「…理解できないですか?」


「うん。わかんないです…」



半ばやさぐれたように、だけど、しょんぼり呟く彼女。
…わからない、本当にそうだったんだな、と少々参ったのは本音。

でも、思わず笑みが漏れた。



「あ、また!馬鹿にしてるでしょ。」

「…ええ、してます。」

「…ふーんだ!馬鹿にしたけりゃどうぞお好きにー。」



それみたことか、という表情を浮かべる叶さんの頭に柔らかく手のひらを乗せる。



「でもね、叶さん。」

「?」


「それはそれで可愛いなって思ってます。」
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