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彼に食ってかかられる

第20章 三度目の正直


あの笑顔に、きゅんとしてしまった。
そしてあのキスと、立て続けにされたキスのことをことある毎に思い出してしまう…





「叶さーん。頼んでた記帳終わりました-?」

「あ、もう少しかかるー。」


文机に向かいながら返事をした叶さん。出来具合を確かめようと覗き込んだけど、思わず固まってしまった。


「…叶さん、途中から筆に墨ついてませんけど?」

「…あっ!?」


しかも。


「それで、何に書いてるんですか?」

「え?何って……うわあ!これ号外の裏じゃん!!」


悲痛な声を上げて、彼女はあたふたし出した。


「わああ!面目ない…!!」

「うわの空はだめですよ?仕事はちゃんとしてください。」

「ごめんごめん!!」


がたがたと慌てて支度をやり直す叶さん。…はあ。仕事に支障が出ているみたいだなぁ。

この間まで変だったけど…
昨日ようやく普通に戻った気がしたんですけどね、不思議だなぁ。



「えっと…新しい紙はどこだっけ、あ、あそこだ。」


よいしょ、と背伸びをして、棚の上の方に手を伸ばす叶さん。
壷やら書物やら置物やら、色々しまってある棚だけに、それを見ててなんだか不安に駆られた。



「あー…危なそうなんで僕が取ります。」


回避するに越したことはない。叶さんの後ろから両腕を伸ばすと、一瞬叶さんの肩がびくっと跳ねた。



「?叶さん?」

「えっ、あ、えーと大丈夫だよ、取れ、……」


「いえ、そんなこと言って何か落とされたら困…る、んで……」



背後にいる僕と目を合わせるべく、こちらを振り向いた瞬間、叶さんの声が途切れる。そのまま数秒後、彼女の沈黙の意味に気付いた僕も、暫くして声を途切れさせた。


まるで、叶さんを壁際に追い込んで、覆い被さろうとしているようで。
僕の方が少し背が高いから、叶さんにとっては追い詰められて見下ろされてるような状況で。

──目のやり場に困って俯く叶さん。何と声を掛けてやればいいものだろう。
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