第3章 夕涼みの安息
「馬鹿は風邪を引かないと思ってましたけど。」
「…」
「馬鹿だから風邪を引くんですね。」
「…」
「今回は完全に盲点を突かれました。僕の予想を裏切るだなんてさすがだなぁ、叶さん。」
「誰が馬鹿よ。鞭打ちどころか全身なます斬りにされてるんですけど。」
「串刺しになる方がよかったですか。」
「そろそろ言っていいですか。私病人なんですけど。」
風呂上りに暑いから涼んでただけだ。少し涼みすぎただけだ。
それをこの男、一々ほじくり返しては、傷口に塩どころか唐辛子どころか、ご丁寧に曼荼羅葉の毒を選んで塗り込んでいく。本当に性格悪いなこいつ。
「…っ?いひゃひゃひゃひゃひゃ!?」
「あ、すみませーん。何か聞こえたものですから。」
「最低!ほっぺが腫れましたよ!あーもうこりゃ駄目だ、もう死ぬな私。死んだら呪ってやる、末代まで祟ってやる。」
「風邪如きで大袈裟だなあ。どんな呪いですか。馬鹿になるんですか、口喧しくなるんですか?」
「禿げ散らかるがいい。」
あー、もういいや。暑い日だけど悪寒やなんやで少しは涼しくなったし。
…ん?てか、ちょっと寒いよ?あれ、真夏なのに?
「…宗次郎。寒い…。」
「…でしょうね。」
「頭…」
「えーと。」
あ、気持ちいい。おでこに宗次郎の手の感触…。
「…ちょっと熱が出て来たみたいですね。」
「まじか。じゃあ病人として堂々と宗次郎をこき使えるわけだ。」
「熱湯かけますよ。」
「…ひゃっ!?」
突然でうっかり驚いてしまった…。氷嚢だった…。
「……本気で熱湯だと思っただなんて言わないでくださいよ?」
「いや、だってあまりにもタイミングが。それに宗次郎が信用でき、ひゃあっ!?」
「熱で頭回らないんでしょうね、可哀想に。」
ありえない。氷嚢をあろうことかほっぺに押しつけてきやがった…!そんなくせにめっちゃ飄々としてる。どんだけ黒いのこの人。
「…ちょっとぉ!こんな冷たいもの急にほっぺに当てなくても!」
「いやあ、よく動く口だなぁと思いまして。」
「それ、全然可哀想と思ってないでしょ。」