第13章 敗北宣言
叶さんにそんな挙動不審な思考をさせたのは、あの突然の出来事のせいに決まってるのに。
…まあ叶さんはよく変な動作をしてるから、いつも通りと言えばそう言えるけど。
でも今回は違うだろう。
「…すみません、叶さん。何て言ったらいいか…」
「?」
丸い瞳がこちらを見返す。
「…あれは僕がどうかしてました。」
「やっぱり!だよねー!?」
甲高い声を上げてきゃっきゃと叫ぶ叶さん。
満面の笑顔に一応ほっとするも、なんでそんなに笑っていられるんだろう、なんでもなかったのかと、少しもやっとする。
「…なんなんですか?なんでそんなに軽く笑ってられるんですか?」
「え?だって、宗次郎。どこか具合悪いんでしょ?」
「は?」
唖然とする宗次郎を尻目に叶は得意気な表情を向けた。
私は沢山考えた──考え過ぎて知恵熱が出たところではっとした。
(そうだ!!体調不良だったんだ!!)
私だって風邪をひいたりする。風邪をひけば、よろけたり怠くて動けなかったり、朦朧としたりする。歯磨き粉と練り生姜を間違えて口にして延々と歯を磨いたり、意味の分からない行動をしてしまったこともある。
そう、きっとあの時、宗次郎は体調不良だったんだ。でなければ、私なんかに、奴にとっては寄生虫と同等の価値の私なんかに、キスなんかするわけがない。
全ては病気のもたらす所以であるだろう──
「…とまあ、こういう推理!!」
「……へー、なるほど。」
…叶さんはやっぱり叶さんだった。
「いやあ、よかったね!私が理解力の高い女で!じゃないと今頃痴漢にされてるよ!」
「ははは。なんかもうどうでもいいや。」
「でもきっと、宗次郎にとっては黒歴史なんだろうなー。」
「そうですね、色んな意味で黒歴史になりました。」
「でも大丈夫!心配しないで!私の胸の中だけに留めておくから!」
「…そうですか。じゃあ。」
「…ふえっ!?」
手荒に腕を引かれ、背中を軽く打つ。そのまま身体にのし掛かる重みに目を開けると──
「えっ?宗次郎?」
「……」
無表情な宗次郎の顔がこちらを見下ろす。叶の身体は彼によって押し倒されていた。