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彼に食ってかかられる

第12章 不意打ちアンブラッセ


「…そろそろ、落ち着きました?」

「わかんない…」



ひしと抱きしめられ伝わる彼女の温もり。まだ離さないで、とでも言いたげに感じた。



「…わかんないはないでしょ。…今までどこ行ってたんですか。」

「…散歩。」



泣き腫らした瞳のまま笑みを浮かべてみせる彼女。それ以上詮索はしなかった。




「…で?諦めるんですか?」

「ぐすっ…」

「泣いててもどうしようもないですよ?」

「ううっ…ぐすん…っ」



しがみつく力が強くなる。背中をぽんぽん、と撫でてやると叶さんは溜め息をついた。



「諦める…。四乃森さんのこと諦める…」

「……」



伏し目がちに、でも自分に言い聞かせるように呟く姿を見るとなんだか苦しくなる。




「……本当に、それでいいんですか?」



思わずそう言ってしまって、しまったと感じた。

潤んだ瞳が縋るようにこちらを見つめるので、咄嗟に頬が熱くなるのを感じた。



「…ごめんなさい。」


「……宗次郎が恋人だったらな……」




ぽつんと呟かれた言葉に胸が締め付けられる。



「え。」

「こういう時、甘えられるのに…」



「……」

「本当は優しくて、頼りになって…後押ししてくれて…。それでこうやって、話聞いてくれて…」

「…」


「私、宗次郎のこと、好きならよかった。」


「…っ…」

「…!!わっ、ごご、ごめんっ!」



がばっと身を離し、あたふた慌てふためく叶。




「ごめんっっ!本っ当にごめんっ!!なんか私っ、勢いに任せて変なこと言った!な、なんて釈明したらいいんだろ!?本当ごめんっ、今の忘れ──」



正面から、ぐっと胸倉を掴まれ、彼の方へ強い力で手繰り寄せられる。

その所作により、必然的に彼を見上げる形になる。そのまま、戸惑う叶の顔に影が落ち────



(──え?えっ?)





気が付くと、宗次郎の唇が重ね付けられていた。








不意打ちアンブラッセ



愛しい人への、くちづけ
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