第12章 不意打ちアンブラッセ
──それから数時間後。僕はわけがわからなかった。
「失恋しちゃった。」
ようやく帰ってきた叶さんは笑いながら呟いた。と思うと、みるみる目が充血していく。
「…振られたんですか?」
「…うわーん!!聞いてよ宗次郎!聞いてくれる!?」
僕に飛びついて彼女はわんわん泣き出した。突拍子もなかったから少し驚きはした。
けど、小さな背が震えていたから、思わずそっと手を添えた。
「…はあ。するとこういうことですか?」
どうやら、手紙を渡そうと街まで追いかけていったけど、渡すと決めて声を掛けようとしたまさにその時、四乃森さんがとある女の子に文を渡したようで。
「私よりっ…全然かわいくて、華奢でっ!かわ、いらしくて女の子、らしい、ひぐっ、めっちゃ、かわいい子…えぐっ!だった…!!」
「何回かわいい言うんですか。」
「だってだってぇ…!」
鼻水だらけの顔でしがみついて胸に埋めてくる叶さん。普段なら叶さんの黴菌が遷ると小突くところだけど、あーはいはい、と頭を撫でてやるしか出来なかった。…気迫負けというやつかな。
「もう恋なんてしないなんて!言わないよ絶対!」
「…ぼやく暇あったら鼻水拭いてください。」
がしっと捕まってるせいで身動きが取れない。
──その頃、京都の葵屋では、蒼紫から手紙を受け取ったちゃうちゃうガールズ達が、蒼紫の頼み通りに翁へとその手紙を渡していた。そう、蒼紫から手紙を受け取ったのは彼女達の中の一人だった。
つまり、叶が危惧するようなことは何一つ起こっていなかったのである。そんなことを彼女はつゆ知らず、今に至る……