第12章 不意打ちアンブラッセ
あれからというもの、叶さんと顔を合わせてない。
そう、あの日彼女が出掛けたきり。夕暮れ時を迎えようとしているのに、彼女は帰ってこない。
──そして四乃森さんも見かけない。
いつもなら何かと喧騒が響く部屋に今は一人でいる。いつもなら「私も食べたい」と連呼する彼女に渋々与える茶菓子も、今は独り占めしている。
そう、悠々自適というやつだ。そう割り切って僕は久々に一人の時間を満喫している。
仕事で足を引っ張られることも、尻拭いをすることもなかった。
いつも以上に無難に仕事を終えた僕は、時間を有意義に使おうと思い立ち、読書なんてしている。──だけど。
ソファに寝そべりながら次々とページを捲りはするが、内容が全く頭に入ってこない。
かわりに、楽しげな彼女の姿を思いがけず想像する。そしてその傍らには──
…おそらく、そういうことなんだろう。
ぽいっと本を投げつけた。
「叶さんのくせに。」そう言葉をこぼしていた。