第56章 おぼつかない夢心地
叶は寝ぼけ眼を擦りながら、空いているソファの隣を手のひらで叩く。
「…なんですか?座れって?」
「うん。」
せっかくだからソファに身を預けて寝ればいいのに、と宗次郎は思いはしたが、心なしか物欲しそうにこちらを見つめている叶の前にはそうするほかなかった。
叶が手を除けるのを見計らって、宗次郎はゆっくりと。隣の叶に反動が届かないように腰を下ろす。
「…これで満足ですか。」
隣からの視線に、少し緊迫した声音で宗次郎は言葉を吐く。
(なんで、緊張してるんだろう…別に何かやましいことをしてるわけでもないのに。)
「…ていうか、こんなに疲れて。普段どれだけ動いてないんですか。」
「うるさいなぁ…明日から頑張る。」
「それ、絶対実行しないですよね。」
「ねぇ……」
のんびりと間延びした声。
ゆっくりと彼女の方へ顔を向けると、にへら、と微笑みかけられた。
(……可愛い。)
思わず声を溢しそうになるけれども。隣り合った彼女の重心がそのままこちらに寄せられる感触に宗次郎は目を見開いた。
程なくして、こて、と叶の頭が宗次郎の肩に乗せられる。
宗次郎に身を預けた叶は間もなく、穏やかな寝息を立て始めた。
「叶さん…」
無駄だと悟りつつあった。身動ぎひとつ取らず、彼女と触れている辺りにそっと目配せした。
「…もう、なんですか。珍しく甘えて…」
脱力した叶の頭に、振動を起こさぬように静かに反対側の腕を伸ばすと、優しく触れて髪を撫でた。
(……これはしばらく動けないな。)
困ったように宗次郎は眉を下げて叶の顔を見つめる。
「…ま、いいか。お疲れ様。」
ぽふ、と自身もソファに背中を預けて。
宗次郎は暫し隣にある温もりに愛おしさを感じながら、その空間に意識をくゆらせるのであった。
後日談
宗「ほんと叶さんには困りましたよ。宗次郎宗次郎って、とてつもなく甘えてくるんですから。」
叶「そんなこと絶対してない!//」
宗「寝てた人にはそんなこと言う権限はありません。」
叶「絶対してないもん!!///」
一人、楽しそうに笑う宗次郎がいたとか。