第56章 おぼつかない夢心地
「…疲れた。眠い。」
「………」
大の字になって寝そべった叶を宗次郎は白けた目で見下ろしていた。
「……疲れた。」
「よかったですね。」
「…全然聞いてないでしょ。微塵もよかったとか思ってないでしょ。」
「人の部屋に来て寛ぎ出して何を言ってるんですか、この人は。」
「何をどう、よいと思ったんですかー?」
「珍しく仕事やら雑用やらしているなぁと思っていました。人間らしいですよ、よかったです。」
「今までの私の人生とは。」
はーっと深呼吸をする叶。
年頃の娘さんが恥じらいもなく人前で…と思いながら宗次郎は告げる。
「…場所を選んだらいかがです?」
「だって、あっちで寝転んだら志々雄さんに目障りだって言われたから。」
「こっちでも目障りですけどね。」
「うわー!宗次郎がいじめたー!いじめられたー!!ねぇ私宗次郎にいじめられましたー!!」
「やかましいです。」
全く、この人は。珍しく真面目にやっているなぁと思ったらこれだ。
……珍しく真面目に、頑張っていたなぁ。
「…?宗次郎、どうしたの。」
「床にそのまま寝てると体を傷めますよ。ソファ使っていいですよ。」
覗き込んだ宗次郎の顔をじっと見つめる叶。
「……でもちょうど今眠くなってきたんだよねぇ。動きたくないかも…」
「人の精一杯の親切を仇で返さないでもらえます?」
「おやすみなさい~…」
宗次郎が呆れた顔で見つめるのにも関わらず、叶の瞼は閉じられていく。
「寝ないでください。」
「んぅぅ…」
「…こら、起きてください。」
身体を揺す振られ、ぺちぺちと頬を叩かれて、ようやく叶は身を起こす。
やれやれ、と溜め息を吐きながらも宗次郎は手を貸す。柔らかい叶の手のひらが触れて。その手を握り返した。そのままゆっくりと誘導していく。
「はい、ここで思う存分休んでくださいね。」
「はーい…」
頷きながら叶は腰かけた。宗次郎はひと息つく。
「…はあ、これでようやく僕が落ち着きますね。」
「宗次郎…」
「はあ、なんです。」