第57章 【七夕のお話】満天の星に祈る
※付き合ってからのお話です。
『どうかお金持ちになれますように!叶』
黄色の短冊にこともなげに書かれた文字を宗次郎は笑顔で眺めて、振り返った。
「悲しくないですか?」
「可愛い女の子に面と向かってそれはなんなの、ちょっと宗次郎、そこに正座。」
「いい度胸ですね。この間、僕が楽しみに取り寄せた水菓子を、目を離した隙に殆ど全部食べたのはどこのどなたでしたっけ?」
「………それはお饅頭一箱で手を打ったじゃありませんか。」
「叶さん、犯した罪は決して消えませんよ。」
「そんなに重罪???」
──宗次郎と並びながら七夕の飾り付けを行っていて。
先日張さんと出掛けた時にノリでつい持って帰ってきた笹を有効活用することになり、なんやかんや私が取りまとめ役のようなものになっている。とどのつまり、そのように暇を持て余しているのが私しかいなかったのである。
まあ、そんな話はさておき──
「…それにしても、もっと他にお願い事はなかったんですか?」
「え?」
別になんでもいいと思うんですけど、と何かを濁すように付け足しながら宗次郎は尋ねる。
「うーん、まあね?子供の頃はお花屋さんになれますようにとか、お菓子屋さんになれますようにとか楽しい感じのこといっぱい書いてたなぁ。」
「そうだったんですか。」
「うん。でも、まあね?もう大人だもん…お金こそがすべてでしょ!お金がなければ死ぬ!所詮この世は弱肉強食…!」
「あーもういいです、いいですから。」
「…でも、七夕の飾り付けなんてほんと久しぶりだなぁ、こう飾り作るの楽しかったなー♪宗次郎は?」
「僕は初めてかなぁ。」
「そうなんだ?それにしては折り紙とか超上手いよね?」
「そうですか?」
「やっぱり色々と器用でいいなぁ、宗次郎は。」
羨望の眼差しで宗次郎の手元を眺めながら、叶は「あ」と声を漏らす。
「そういえば宗次郎は七夕のお願い何にするの?」
「え?」
満面の笑顔で尋ねた叶。宗次郎は珍しく慌てたように反応して何かをさっと隠す。
「え?どうしたの?」
「別に、どうもしません。」
「…気になる。」
「…気にしないでもらえませんか。」