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彼に食ってかかられる

第55章 【お花見のお話】桜の木漏れ日に瞬いた


まじまじとその笑顔を眺めている宗次郎も笑顔を浮かべてはいたが、その目が何処か、想いを馳せているかのように優しげで切なげな香りを含んでいたこと、それは叶も宗次郎自身も気付く由もなかった。


「…あ。宗次郎。」
「はい?」
「今、宗次郎の頭…てっぺんに花びら付いた。」


目を丸くさせて宗次郎の頭の方に視線を辿らせる。


「え?」
「あ、大丈夫大丈夫!取ってあげるからじっとしてて。」
「すみません。」


よいしょ、と腕を伸ばして。
叶の春色の袖が重力に従って肘の辺りにゆっくりと落ちる。伸ばされた白い腕が宗次郎の頭の上に翳されていく。

ふんわりと、優しくつむじに触れる気配。
どうしてだか、無性に…暖かさに、叶に包まれたかのような感覚に陥った。


「はい!これでよし。」


明るい声がこだます。天真爛漫な笑みを浮かべた叶。


「…ありがとうございます。」
「ふふ、なんかとても仲良しみたいだね、お揃いで。」


とても楽しくて我慢できない、というように朗らかに綻びこぼれる彼女の声。
その無邪気な様に釣られたのか、おのずと宗次郎の表情には和やかな笑顔が宿っていた。

──その移り変わりの一連が終わった頃、叶はまた縋るように宗次郎に告げる。


「…ね!お団子もう少し頼もう?」
「……仕方ないですね、叶さんのお小遣い前借りって、後で志々雄さんに伝えときますね。」
「えぇ……」
「その前に頼んだお団子達は誰が出したんだったかなぁ。」


──わざと意地悪に告げると、慌てふためき出す彼女。
つい、何故かそう言ってしまう。


(可愛い部下…か。つい可愛いと思ったなんて、そんなこと。)


自ら感じたことを反芻しながら、けれど宗次郎はその想いを心の深く深くにしまう心積もりをしていた。


(…触れたいと思ったなんて。)


叶に気付かれぬように淡い笑みを浮かべる。
無邪気に笑っている叶に相反して、その眼差しは少し悲しげに揺れていた。

指先に触れた花弁の感触、そして彼女の髪の感触が暫く忘れられなかった。
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