第55章 【お花見のお話】桜の木漏れ日に瞬いた
※二人が付き合う前のお話です。
「花より団子って言われそうだね、私たち。」
また新しい串に手を伸ばしながら叶は呟いた。
満開の桜の木々が幾分も咲き誇る光景を目の当たりにしながら、長閑に過ごす日。
二人で偶然見つけた地も此処の茶屋も、知る人ぞ知る秘境といったところなのか。宗次郎と叶以外の客は見当たらず、二人はのんびりと寛いでいた。
「まあ、そうかもしれませんね。」
「桜は綺麗で最高だよ。それを楽しみながらこうして美味しいお団子を食べるのが乙なんだよね!」
「そうですよね。じゃ、いただきます。」
「…あーっ!最後の一個、宗次郎がとったぁ…!」
「残念。早い者勝ちですよ。」
爽やかな笑顔で告げられた。
「…ね!もう三個くらい追加で注文しようよ!」
「え~、これで何回目です?」
舞い散る桜の花びらをつい目で追いながら宗次郎は呟く。
けれども、叶は食い下がるように。
「ねえ、ねえ!宗次郎!」
「んー…」
「どうか今日だけは、この可愛い部下の為に!」
そう言って、ぱんっと両の手のひらを合わせて、縋るように見つめてくる叶。
宗次郎の視線は自然と叶の方へと流れていく。
「ね?」
「……」
傍らから差すまっすぐな眼差し。
──宗次郎はそっと空いた手を叶の顔に近付ける。
「…?」
「……」
一瞬ぴくり、と身動いだ叶だったけれど、そのままじっと宗次郎の顔を見つめて“なんだろう?”と言いたげな表情を浮かべる。
いつしか笑顔も忘れて、宗次郎は叶を見つめていたけれど、ようやくふっと笑みをこぼして。
「花びらくっついてますよ。」
「…えっ、どこ?」
「ほら、ここですよ。」
叶の耳辺りへとゆっくりと指先を伸ばしたが、やがてぴたりと動きを止めた宗次郎。
「え、わかんない。取って取って!」
「…触れますね。」
優しく触れる指先。視界には映らないだろうに、指先を目で追うようにして終始を見守る叶。
彼女の髪を引っ張らないように、そうっと花弁をつまんだ。
「……取れた?」
「ええ…」
「ありがとう。」
にこ、と笑いかけた叶。