第54章 【お正月夢】初春に咲きそろう
宗次郎はまた言葉を紡ぐ。それは、これはしかと彼女に伝えなければならない、とでも言うように。
彼は少しだけ、目を泳がせて、でも。
「まあ…今日の叶さんは可愛いです。」
「も、もういいよ///褒め殺しは馴れてないのでなんだか…」
「でもね、叶さん。」
「?//」
「…元々可愛いですからね、叶さん。」
悪戯っぽく笑って、楽しそうに佇む宗次郎に。いよいよどうすればいいかわからず、叶は真っ赤になって立ち竦むのであった。
「ほら、そろそろ出掛けましょうか。」
爽やかな笑みとともにこちらに差し出した手は容易く叶の手を絡み取り。そっと初空月の世界へと叶を誘うのであった。
叶の部屋の押し入れで、ことり、と鳴った物音と共に彼女たちのため息交じりの声が漏れた。
鎌「なんだかんだいいムードじゃない?///宗ちゃんと叶!」
由「まさかあの子達でこんな微笑ましい光景見れる日が来るとは思わなかったわ///」
一人で晴れ着の着付けが出来なかった叶は、頼もしい二人のスタイリストにお手伝いを頼んでおり。その見返りとして…
由(支度出来たら、宗次郎を部屋に呼んで“私可愛い?”って訊くのよ!)
鎌(私達はここで見てるから!)
叶(ええっ!///出来ないですよぉ!第一、宗次郎そういうこと絶対言いませんってば~!)
鎌(私達がいなければ…ね!)
由(こんなに可愛く着飾った叶と二人きり、坊やだって必ず男を見せるわ!)
鎌(上手くやんなさい!)
叶(えぇーっ!?///)
──そういう経緯があったのですが、肝心の叶はというと、宗次郎が部屋に訪れて、そして宗次郎からの嬉しい言葉を聞いた頃合いに、二人が見ていることを忘れてしまっていたのでした。
(初春に咲き揃う)
「わあ!!やったー!大吉だ!なんだろう、宗次郎にいっぱい美味しいもの買ってもらえるのかな!」
「…そういえば叶さん。」
「はい?」
「一人でこれ準備出来たんですね?」
「…あ。」
「………てっきり部屋には叶さん一人だけだと思ってた…しまったなぁ…」
宗次郎は一人恥じらう様子を見せながらため息を吐いた。