第54章 【お正月夢】初春に咲きそろう
「叶さん、大丈夫ですか?」
「も、もうちょっと待ってー!」
「…今日都合が悪ければまた今度でもいいんですけど…」
「もうちょっとだけですから…!待っててー!」
かれこれ、少しばかり長い時間が経過しようとしていた。
宗次郎としては。特に急かしたり意地悪で言ったりしているわけではないのだが、彼女──叶には何やら手掛けていることがあったようで。
それならば一緒に初詣に行くのは今日ではなくとも、またゆっくりと時間が取れる日でも良いと宗次郎は思ったのであるが。
帰ってくるのは“待ってて”という言葉であった。
(無理やり誘ってしまったかなぁ…)
三回目だろうか。再度訪ねた彼女の部屋の前にたむろし続けているのも如何なものかと思い、また一度、自室へと戻ろうかと身体を翻したのであるが。
「──宗次郎!お待たせしましたー!」
「…あらら。」
高らかな声が響いたかと思うとばたばたばた、と慌ただしい物音がする。
転ぶんじゃないか、彼女のそそっかしさを思い返し自ずとそう危惧して、扉の向こう側に想いを馳せる。
そうしながら叶が部屋から出て来るのを待っていたけれど。
「…ね、宗次郎!」
「なんです?」
「ちょっと部屋に入ってきてくれない?」
「?」
なんだろう、と思いはしたけれどそれ以上は深くは考えずに、叶に誘われるがままに扉を開いて中へと足を踏み入れる。
そこで目にした彼女の姿に宗次郎は思わず息を止めた。
「……」
「…ちょっと頑張ってみたんだけど、変かな…?」
「…変じゃないです。」
「そお!?よかった!」
ほっとしたように笑いかけ、彼女は満面の笑みを宗次郎に向けた。
金銀の絹糸の刺繍が施された、彩り豊かな着物に立派な帯締め。豪華な振袖に身を包み、髪もきちんと結い上げ。丁寧にお化粧もし、可愛らしい色の紅を差して──なんだか、花のような良い香りも漂う気がする。
綺麗に着飾った叶は改めて、照れたような笑みを宗次郎に向けた。
「せっかくの…宗次郎とのお出掛けだから…」
「…そっか、それで支度をしてたんですね。」
「う、うん//」
落ち着かない様子で叶はちらちらと宗次郎を見つめる。
「…可愛くなれてるかな…?」
その仕草に思わず宗次郎の胸は高鳴る。