第53章 【ハロウィン話】お菓子といたずら
やすやすと淘汰されるような根性は持ち合わせていないけれども、自分は弱者。
けれど宗次郎は…そんな自分を受け入れてくれているんだと。今の自分は空気のように宗次郎の傍に佇んでいる存在なのだと。あらためて感じた。
それは叶を笑顔にさせるには十分だった。
宗次郎の指先が止まる。
「え、なんですか。急に締まりのない顔して。」
「な、なんでもなーい…って誰が締まりのない顔よ!」
「叶さん以外誰がいるんです?馬鹿ですね、馬鹿。」
「うるっさい、もう。」
再びぷに、ぷに、と頬に触れる指先。
でも…どうしてもにやにやと頬が緩んでしまう。
次第にその状況に耐えきれなくなって、宗次郎の手を払いのけて、顔を伏せようとするも。
やすやすと両手首を掴まれて、捕まえられる。
そして尚も、じっと見つめられる。
「あれ?なんかのツボに入っちゃいました?」
「…そうだよ、もう。」
「え?何かあったんですか?」
まじまじと覗き込んでくる笑顔。
…逃げられない。
逃げられないし、甘えたくなる。素直に本音を言いたくなる。
ようやく、小さな、小さな声で返した。
「……照れてるの。」
「え?」
「…嬉しかったの!」
もういいや、と僅かの時間だった我慢を解いて露わにすると、顔が火照っていくようで。
その一部始終を眼前で見守っていた宗次郎は。
「…叶さん、反則。」
瞬間、妖艶な笑みを浮かべた。
その仕草を目にして、途端に激しくなっていく叶の胸の鼓動。
優しく微笑みかけながら、そして滑るように頬に触れていく手のひら。優しく、優しく、逃げられないように包まれて。
「いたずら…しちゃいますね…?」
囁かれるように紡がれた言葉。恥ずかしくて、総毛立つような感覚。