第53章 【ハロウィン話】お菓子といたずら
にこにこと無邪気な微笑みを向けられる。
向かい合わせに佇む宗次郎に叶はおのずと体が強張っていくのを感じた。
「え、えっと…なんか怖い…」
「心外だなぁ。」
「だって…」
恐る恐る宗次郎を見上げる。場に飲まれないよう無意味に笑顔を貼り付けながら。
(え、なんだ、何企んでるんだろ…?)
──しばらくして。
「……!」
「…叶さん。」
すっ…と真剣味を帯びた眼差し。
叶の心臓は激しく脈打っていく。
「叶さん…」
「な、なに…?」
「…何すればいいですか?」
「…は?」
「……」
叶を見つめたまま固まる宗次郎。
その様子に叶はようやく事態を把握した。
「え?…えっ?本気で言ってるやつ?」
「……叶さん、思い付くまで待っててもらえます?」
「いやぁ、それなら逃がしてもらいたいんですけど…」
「どうしようかなぁ。」
「人の話聞いてください。」
うーん、と考え込み出した宗次郎。
依然、両手を掴まれてる叶は為す術もなく、そのまま彼の前でどうしたらいいものやら、と思いながら気まずそうに視線を浮かせる。
(なんだろ…この…宗次郎にいたずらされるのを待ってる状況…?)
「叶さん。」
「…?」
「叶さんは、どうしてもらいたいですか?」
ぷに、と宗次郎の指先が頬を突っつく。
まっすぐな眼差しで見下ろしながら。
「いやぁー…私に聞くのはおかしいでしょ。」
「だって…叶さんの弱みにかこつけていたずらする気にはなれないですし。」
「な、なにそれ今更…今まで散々、」
答えようとするも。
ぷに、ぷに、ぷに、と宗次郎の指が繰り返し頬に当てられる。
「…っ、なに、この攻撃。」
「張りがいいので楽しくなっちゃって。」
「なんだそれ。」
依然、頬を突っつく指は止まらない。
妙な気持ちになりながら仕方なくじっとしていると、宗次郎は再び口を開く。
「いえ、ね?叶さん、だって、」
「……」
「叶さんは脆弱な人間ですからね。余裕ある僕がそこは汲んであげないと。」
一瞬、いつも通り食って掛かられているのかと思いかけたけれど。