第52章 【夢主誕生日話】特別な日
「……どういうつもりです?」
「え?」
──裏路地に入ったところで突如、雰囲気が反転し低く囁いた宗次郎に壁に追い込まれ逃げ場を失った。
「わっ…!?えっ…?」
「逃がしませんよ。」
顔の両横には宗次郎の両腕。
こちらを見下ろしながらにこりと微笑まれ、次の瞬間にはじろりとした目線を向けられた。
「どういうって……?」
「叶さんは何がしたいんですか?」
「……宗次郎と…デートがしたかった。一緒に甘いもの食べて楽しいことして……ごめん、羽目外し過ぎてたよね、私……ごめ、」
言葉を遮るように伸ばされた宗次郎の手。そのまま手のひらに頬を包まれる──暖かい。
「……僕が言いたいのは、こういう特権があるのに、なんで、ということですよ。」
「…?」
「なんでも言うこと、聞いてもらえるんでしょう?」
静かに微笑みを携えて、宗次郎は叶をまっすぐに見下ろす。
「正しい使い方、教えてあげますよ。」
「えっ…」
叶の顔にゆっくりと影が被さる。真剣な眼差しで見つめたまま。迫り来る宗次郎の肌に叶の心臓は高鳴る。
「だ、誰か来たら…!」
「こんなところ誰も来ませんよ。だから。」
安心してください、と恐ろしいほど穏やかな声がそう告げた。
「叶さん。」
「っ!」
頬に添えられた手に優しく撫でられ、叶の顔はやんわりと微熱を宿らせていく。ゆっくりと愛撫しながら、柔らかい指先が耳朶をそっと掠めた。
「あ…っ…」
「叶さん。」
近付いた唇が耳元で優しく囁きかける。少し掠れた低い声と吐き出す吐息に身体が反応してしまう。
「ひ、ゃ……!」
「あはは、可愛い。叶さん。」
「ん、宗次郎…」
いつの間にか片方の手は肩に這わされ、叶の身体を抑え付けていた。
叶は半ば混乱しながら縋るように宗次郎を見上げようとするのだが、そっと下唇を撫でられ、ふにふに、と指で優しく押される。
何故かとても恥ずかしい感覚に襲われ、一層頬を赤らめてしまう。