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彼に食ってかかられる

第52章 【夢主誕生日話】特別な日


『私、今日誕生日なんだ。』


──にこにこと笑みを浮かべた彼女が言い放った提案は、宗次郎の予想を遥かに上回るものだった。



“宗次郎になんでも言うこと聞いてもらえる券”
──そう書かれた短冊状のいくつもの紙を、扇状に広げてみせて叶さんは僕に笑いかけたのだった。


『今日はこれを使わせてもらうから!』

『え?自作ですか?引くんですけど。』

『違うもん!由美さんと鎌足さんに貰ったんだもん!これでいい夢見なさいって!』

『………』


…まあ、今日一日仕方ないか。
叶さんの、仮にも特別な日だし。


『なので…宗次郎とお出かけがしたいな…//』


──別に、流されたとかそういうのじゃないですからね。叶さんの特別な日だから、です。


『分かりましたよ、今日は叶さんの仰せのま…』

『やったー!じゃあ出かける前に肩揉んで♪』

『は?』

『分かりましたよって言ったよね?で、甘味処で餡蜜とおはぎ食べて…』

『明日を楽しみにしててくださいね。借りはきっちりお返ししますから。』



* * * * *



という経緯を踏まえて現在。
叶さんに連れられて甘味巡りの旅と化した一日を刻んでいるのだった。


「叶さん──」

「あぁ、美味しかったなぁ♪次はどうしようかなぁ。」


(……多分僕が好きそうな甘味処に連れて行ってくれてるんだと思うんですけど。)


笑顔を絶やさない彼女は、それはそれで、可愛い。けれど。

前以て控えていたのであろう、色々なお店を記した手帖を取り出し眺めていた叶の横顔を見下ろしながら宗次郎は口火を切ったのだった。


「…叶さん、」

「なに?」

「お持ち帰り用のお菓子買いません?僕いいお店知ってるんですけど。」

「本当?じゃあ行ってみたいなぁ。」

「じゃあ…」


叶は思わず目を瞬かせた。

──宗次郎に不意に手を絡め取られて繋がれる。あまりにも容易かったのだけれども、まるで、離すまい、とでもいう風に。思いがけない感覚に自然と胸がときめいてしまう。


「…あ、//」

「こちらの方です。」


振り向いた端正な顔ににこりと微笑みかけられ、叶は言葉を失った。
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