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彼に食ってかかられる

第46章 こどもの日の思い出


「あの、待って。」

「…えっ!?さっきの子!?え、足速くない!?」

「これ、さっき落としたんだけど。お財布ってこれ…?」


差し出すと、その子はぱあっと目を瞬かせた。


「あなたが見つけてくれたの!?」

「ええと、君から落ちたよ…?」

「ありがとうっ!」


にこにこと満面の笑みで微笑まれて。


(まあ、いっか。)

「あ、もしよかったら…これちょっと分けてあげるね!」

「?」

「手出して。」


誘われるがままに手のひらを差し出すと。

袖口から出した包みを開いて、ぽろぽろと小さな粒が幾つか落ちていく。


「?これは?」

「金平糖!綺麗でしょ?」


楽しそうに笑う女の子に釣られて、思わず僕も笑顔になる。


「これはえーっと…?」

「あれ?知らないの?お砂糖のお菓子だよ。」

「へえ、お菓子なんだ。これ。」


その子がひとつまみ口に入れたから、僕も一つ摘まんで口にする。


「…おいしいね。」

「そうでしょ!?金平糖っていうんだよ、金、平、糖。」

「もう覚えたよ、大丈夫。」

「そっかぁ…あ!私こんなことしてる場合じゃなかったんだ!」


はっとした顔をして、また女の子は慌て出す。


「…ちゃんとお財布、手に持ってた方がいいと思うよ?」

「あっ、そうだね!見つけてくれてありがとうね!」

「ううん。」

「あ、これ、金平糖もう全部あげる!」

「え、いいの?君のは?」

「いいのいいの!お礼だし、あなた美味しそうに食べてたし!それじゃあ、ありがとうね!」


こちらに手を振ってその子は立ち去っていった。


手のひらに残された紙の包み。

もう一つ摘まんでみた。
とても甘かった。





* * * * *



「どうしたの?宗次郎、ぼーってして。」

「…別に?」

「いやいや明らかぼーってしてたから。」


じっとこちらを見つめる叶さん。

小皿の上に拾い集めた金平糖を一つ摘まんで口に入れる叶さんを見ながら。


「ん?宗次郎どしたの?」

「なんでもありませんよ。」

「嘘だー。あ、私に惚れ直した?」

「うるさいですよ。」

「ちょ、だから金平糖投げ、いった!!!」


いつかの物語。
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