第45章 ときめきへ道連れ
珍しく、驚いたように目を丸くさせて振り向いた宗次郎の顔を前にして。叶は一瞬固まったが、慌てて彼の背中をぱしぱしと叩いた。
「あっ!!違うよ?違うよ!?違うからね!?宗次郎といちゃいちゃしたいって意味じゃなくて!!」
「…え?いちゃいちゃしたくないんですか?僕と。」
「いやそれは…ごにょごにょ。と、とにかく!こんないい年しておんぶされながら公道通るの恥ずかしい!」
「いや、歩いてて連れがすっごく騒がしく階段落ちていった僕の身にもなってくださいよ。」
「そうでした…!」
「わかったら背中叩かないでもらえますか。」
「はぁい…!」
取るに足らない会話を暫く続けていたが。
帰宅まであと少しというところで。叶が取り出した行動に宗次郎の心は人知れず掻き乱されるのであった。
「…宗次郎の背中あったかい。」
「……」
「落ち着く。あとなんか匂いも落ち着く。」
「……(この人は…)」
仕舞いにはすりすり、と擦れる感覚。
ちら、と振り返ると少し微睡んだような表情の彼女が背中に顔を寄せていた。
「あの…あまり頬ずりしないでください。」
「どうして?」
(なんか、照れるじゃないですか。)
その言葉が喉元すぐに出てきたものの、宗次郎は押し黙って呟きかけた言葉を飲み込んだ。
「…叶さん阿呆だから教えない。」
「あ、じゃあ止めてやんないから!」
まるで水を得た魚のように楽しむ叶。
抱え込むように宗次郎の身体の前に手を回し、好き勝手勤しむのだが、宗次郎としてはついつい気になってしまう。
「…恥ずかしいんじゃなかったんですか?」
「え?…今なら人いないからいいかなって思って。」
「…ふーん。」
「宗次郎もデレなよー。」
「…やです。」
「けちんぼ。いいもんいいもんー。」
(…怪我があるから強く言えないけど、あまり抱き付かないでほしいなぁ…意識しちゃうんだけどな…)
宗次郎はひっそりと甘やかなため息をついた。
ときめきへ道連れ
(酸いも甘いも、恥も嬉しさもすべて一緒くた。)