第41章 【桃の節句話】花酔い日和
「あかりをつけましょぼんぼりにー。」
「叶さん、なんですか?これは。」
「雛祭り!」
「へえ。」
無邪気に笑う叶。
宗次郎はにこにこと微笑みを向け、眼前の高いそれを見上げた。
「これは雛壇なんですか?」
「うん!」
「ふうん。ということは、ここにお人形を飾るんですよね?」
「そうそう。」
「楽しそうですね。」
「うん!宗次郎も手空いてたら…あああああ!?」
何を血迷ったのか、抜刀されその刀を振りかざされ──反射的に雪洞を掴んで盾にすると、当たる直前でぴたりと寸止めされた。
「な、なななな、なに!?」
震えながら後ずさるも、眉一つ動かさない笑みがこちらを追い詰め続ける。
「叶さん、それ邪魔です。僕だって無駄にものを壊したくないんですよ。」
「いやいや!私も斬っちゃダメなものだから!」
「いえ、叶さんも血祭りに上げて一緒に飾ってあげようかと。」
「怖っ!」
縮み上がる叶をよそに、五段の雛壇に掛けられた赤い毛氈をぴらっと捲り上げる。
「やっぱり。」
「…あ、ばれた?」
「これ、僕の部屋の箪笥でしょ?勝手な使い方しないでください。」
「だってー。雛壇ないんだもん。」
「志々雄さんに頼んでみればいいじゃないですか。」
「知ってるでしょ?こないだバカ高い花瓶割っちゃったから、当面お小遣いも欲しいものももらえないって!」
「それは叶さんの自業自得でしょ。」
「ね!一生のお願い!今日だけ箪笥貸して?」
だめ?と上目遣いをする叶。その仕草に一瞬、宗次郎は怯む。そのことには気付かない叶ではあるが必死に手を合わせる。
「ね!お願いします!」
「変なお願い事もあるものなんだなぁ…」
「あ、そうだ!これとかこれとか、これとか!みーんなあげちゃう!!」
辺りに置いてた雛あられやら菱餅やら白酒やらを貢ぐように抱えて差し出され…
「ね!ね!?お願いします!」
「わかりましたよ、そこまで言うのなら…」
宗次郎は大人しく受け入れたのだった。
「………」
「叶さん、なんだか楽しいですね♪」
「そ、そうかい…?」
「あはは、叶さんてば、ぎこちない♪」