第40章 朝のひと仕事
「叶さん起きてください、朝ですよ。」
「あー……うー……」
「叶さん。」
…どうすればいいものやら、と宗次郎は叶を見下ろして思わず腕組みした。
叶は一向に身を起こす気配はなく、布団を目元辺りまで引き上げていつまでも寝そべっている。
最初は部屋の外から呼んで、次第に部屋の戸を開けて声を掛けても、その時の叶は反応すら示さなかった。
段々呼びかけが至近距離へと縮んでいった結果、今のこの状況に至る。
「起きれないにも程があります。」
「ちょっと待って…あと……」
「延々ずっと五分、五分と言ってますよね?」
「あと三時間くらい……」
「何なんですか、こう人を苛立たせる生き物。」
思わず呟くと、僅かに覘いてる叶の目元がにやりと笑った時のように細くなるのが見えた。
体を覆う布団に拳を突き入れる。
「うえっ!」
「なに笑ってるんですか。」
「…あ、ばれた?」
「隠す気あったんですか?」
「宗次郎怒ってるや~って思って、フフフ…」
「他人の鬱憤を浴びてくる仕事向いてると思いますよ。今度試しに出向させましょうか。」
「むりむりむり…それ絶対生きて帰れないやつでしょ…!」
おどけながら、まだ笑みを浮かべている叶。
「…宗次郎ももう少し寝てればいいじゃん、そうしようよ。」
「………」
「まだ早い時間じゃん、大丈夫だって。一緒に寝よ…?」
……この状況をわかっているのか、彼女は。
寝ぼけ眼を浮かべて片袖を掴んでくる様は可愛くないとはとても言えないけれど。
(…まるで起きる気はおよそ、緊張感もなければ…警戒心も全く…いえ、いいんですけどね。いいんですけど…)
…うっかり過ちを犯すなんてことはないけれども。
咳払いをして、いつもの笑顔を保ちながら諭すように言葉をかけた。
「…あなたが寝ぼけてることくらい重々承知してますけど、そういう冗談は程々に…」
「宗次郎…おやすみのチューして?」
* * *
「いったぁい!!何するの!」
「当然です。からかうのも程々にしましょうね?」
「ほんの出来心じゃん…」
涙目で叶は訴えるけれども。
頭のてっぺんを抑えながら布団に顔を埋め、そして。