第1章 1
「笑ってるだと?」
「せや、まぁちょっと前までピリピリしとったからそう見えたんかもしれへん」
忍足は無関心のようで実は人のことを見ている奴だ。だから些細な顔の緩みでもそう疑うのだろう。まぁ実際緩む原因もあるのだが・・
そう俺たちが会話していると顔の緩みの原因である奴が丁度コートに入ってきた。すると自然と視線は奴の方へ向き、俺を見ていた忍足も視線を追って奴を見る。
顔の緩みの原因である奴は俺たちが居るコートとは反対側のコートに向かってた。そしてベンチにタオルとボトルを置く様子が見て取れた。
「あ!つばきー!」
「!」
ふっと視線を奴より横にずらしてみるとそこにはにこやかな顔をした向日が奴を見つけ呼びかけていた。突然呼びかけられた奴は少し目を丸くしながら向日の方に振り返っていた。
向日が奴に近づきながら「お疲れ~!」と挨拶をするとそれにもの凄く強張った顔をして振り絞るように「お、お疲れ!」っと挨拶を返していた。
そんな様子を見て少し前の出来事を思い出し内心微笑ましくなり鼻で笑ってしまった。
「あ~、なるほどなぁ」
すると忍足が俺の様子を見て納得したように頷いた。
「微笑みの原因はつばきさんやったんやな」
「まぁ色々あってな」
「ふーん?」
意味深なことを言った俺に何やら勘ぐるような笑みを浮かべた忍足。面倒なことを聞かれる前にさっさと立ち去ろうと練習に戻ると忍足に告げベンチから離れた。