第1章 1
「おい跡部、最近どなんしてん?」
「あーん?何がだ?」
練習のちょっとした休憩時間、忍足が急に話し掛けてきた。
お互い給水を取ろうとたまたまベンチに居合わせただけなのだが、まるで珍しいものでも見るような顔をして俺を見てきた。
「何やええことでもあったん?」
そう言って首を少し横に傾かせる忍足。片手にはもうちょっとで飲みきりそうなスポーツドリンクの入ったボトルを手にしている。
「特にないな」
「そうかぁ?俺の勘違いやろか」
最近良いこと・・といえば思いつかなくもないが、これを他人に言ってしまってもメリットはないと思い何事もなかったように振舞う。だが実際あったにはあったんだ。
その【良いこと】ということが
先日つばきとまともな会話をした。
内容は凄くくだらなかったが、いつも俺に対し無愛想な態度を取っていたあいつだが今回は意思疎通に成功した。
毎度話しかけると睨みつけたり、冷たく短い返事しかしなかったくせにこの間は相談者として普通に会話が出来た。
「何故そう思ったんだ?」
「表情がいつもよりか緩んどったからな」
「あ?何だそれ」
「つまり笑ろうてるように見えたんや」と忍足は続けた